ここに閉じ込められて、どれくらいたっただろうか?
少年は、謎の男に閉じ込められた時のことを思い出す。
『月夜の城』──この辺りでは名の知れた城。窓の外では、森が黒い海のように、沈黙の中にたゆたっている。
なぜ自分がここにいるのか──少年には、一切知らされていなかった。
ただひとつだけ確かなのは、謎の男が、少年をわが子のように可愛がってくれていたこと。
「ガチャン」──
突然、鈍い金属音が響いた。鍵が開いたのだ。
この部屋から、出られるかもしれない。
だが、机の上には一枚の紙が残されていた。
──「部屋から出ることを禁ずる」
息をのむ。
少年は、不安を抱きながらも、扉に手をかけた。
ライター/ねりけし
◇ 本記事の構成 ◇
・ロザリオを手に、悪魔に抗う──『Zelle』の探索と死のルール
・ジャンプスケアに頼らない『Zelle』の恐怖演出と余韻の美学
・『Zelle』を彩る音楽──静けさと儚さを感じさせるサウンドの魅力
・「痛みごと美しい」──『Zelle』が刻む、月夜のような物語
ロザリオを手に、悪魔に抗う──『Zelle』の探索と死のルール
『Zelle』は、城の中と外を探索しながら、物語を進めていくオカルトホラーアドベンチャーだ。
城内は一人称視点で描かれている。
気になるものがあれば、手を伸ばす。ヒントを拾い集めながら、先へと進んでいく。
だが、探索はそう簡単には進まない。
城の中には、闇の住人である「悪魔」が潜んでいる。
人間である少年の命を、狡猾に、そして残酷に狙ってくる。
少年には悪魔に対抗する術がある。

ロザリオ。
とある場所で女神から授かる、退魔の道具だ。
悪魔の目の色と同じロザリオを選び、クリックすれば撃退できる。
狡猾な彼らのことだ。そう簡単にはロザリオに触れさせてくれないだろう。
だがくれぐれも気を付けてほしい。失敗はそのまま「死」に繋がるのだから……。
『Zelle』の世界に住むのは、悪魔だけではない。
踊るのが大好きな小さな男の子、月の顔をした子供が大好きなおじさん。そして死神。
奇妙な個性を持つ住人たちと関わっていくことで、気づけば、月夜の海に沈むように、その世界に溺れているかもしれない。
ジャンプスケアに頼らない『Zelle』の恐怖演出と余韻の美学

『Zelle』の恐怖は、いわゆる“ジャンプスケア”──突然大きな音や動きで驚かせる手法──に頼らない。
代わりに、じわじわと迫ってくる“気配”や、“ふと目に映る変化”で、静かな不安を植えつけてくる。
誰もいなかったはずの薄暗い廊下。そこに「ひた、ひた」と、子どもの足音のような湿った音が背後から忍び寄る。
窓の外には、黒い影と獲物を見つめる赤く血走った瞳。
そんな恐怖演出のあとに彼ら「悪魔」は冷酷にそして静かに襲い掛かってくる。
だが、本当に恐ろしいのは彼らの”死に際”だ。

血飛沫が舞い、その身体は砕け、花弁のように静かに舞い落ちていく。
その死に様は、あまりにも醜く──だが、どこか哀れで、美しさすら感じる。
戦いに勝利し、命をつないだにもかかわらず、安堵は訪れない。
それは“命を断った”という事実だけが、後味の悪さとして残るからだ。目を閉じても、その最後の姿がまぶたに焼きついて離れない。
『Zelle』の恐怖は、そうして、終わったあとにも静かに、深く、心に残り続ける。
『Zelle』を彩る音楽──静けさと儚さを感じさせるサウンドの魅力

『Zelle』は、グロテスクな描写が多く、人を選ぶ作品なのは間違いない。
けれど確かに、そこには──月が夜に静かに輝くような美しさが、たしかに存在している。
それは、触れれば壊れてしまいそうな、儚く、沈んだ美。
そんな美しさを感じさせてくれる理由のひとつが、サウンドだろう。
特に、タイトル画面で流れるメインテーマ。
音楽のことは詳しくない。けれど、このピアノの音だけは、なぜか心をすっと落ち着かせてくれた。
この一曲があったからこそ、このゲームの「夜の静けさ」は、いまでも記憶に残っている気がする。
『Zelle』には、メインテーマ以外にも、心を打つ楽曲がいくつも存在する。
中には、ほんの少しだけ“未来”を感じさせるような、光の差す旋律もある。
どんな場面で流れるのかは、ぜひあなた自身の足で、物語の奥へと進んで確かめてみてほしい。
「痛みごと美しい」──『Zelle』が刻む、月夜のような物語

『Zelle』は、ゴシックで耽美的な雰囲気、グロテスクな描写、そして心に直接触れてくるようなサウンド。
その三つが融合し、夜空に静かに輝く満月のような、あやしい美しさをたたえた作品となっている。
筆者は、もともとホラー作品が得意ではなかった。とくに、グロテスクな表現に対しては苦手意識が強かった。
けれど本作には、そうした表現がありながらも、美しさを感じさせる何かがあり、のめり込むようにプレイを進めてしまった。
しかし美しいと感じる一方で、それでもなお、「死」は美しいものではなく、残酷で、苦しいものなのだとも感じた。

この作品を最後までプレイして思うのは、恐怖や死、傷つけ合うものたちのなかにも、たしかに「触れたくなる美」が存在するということだ。
それは決して、快いものではない。
むしろ、苦しさや不安とともに胸に残り続ける、静かな痛みのようなものかもしれない。
『Zelle』は、そんな「痛みごと美しい体験」を、ひとつの物語として私に刻んでくれた。
夜が深くなったら、またあの城のことを思い出すかもしれない。
あの静けさと、崩れていった命のかたち。
そして──エメラダというひとりの少年が歩いた、月夜の深みに沈んでいくような物語を。
きっと、この物語を進めたあなたの中にも、何かが静かに残っているのではないだろうか。
……もし、この物語の余韻に心を引かれたなら。
クリア後にこそ読んでほしい設定資料集が、公式ホームページに静かに公開されている。
あの世界の裏側に触れることで、『Zelle』という作品が持つ奥行きが、もう一段深く感じられるはずだ。
引用・参考情報について
本記事で使用したスクリーンショットおよび情報は、以下に基づいております。
スクリーンショット: 『Zelle』の公式プレスキットより取得
ゲーム仕様・特徴: 『Zelle』のSteam公式ページを参考
Zelle – Occult Adventure
© 2019 Fuming (PC/Mac)
© 2020 Fuming & Odencat Inc. (iOS/Android)
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