『誓いノ淵』という作品をご存じだろうか。
ジャンルは「シナリオ特化型2Dハクスラ」。
本作は、登録者数約60万人の考察系YouTuber・上級騎士なるにぃ氏(以下なるにぃ氏)が、ゲーム開発に参入する形で立ち上げたクラウドファンディングプロジェクトとして注目を集めた作品だ。
プロジェクトは2023年2月10日に開始され、4日間で目標金額である3000万円を達成。最終的には約5000万円の支援を集める大型プロジェクトとなった。
一方で現在、プロジェクトの進捗について課題が生じているとして、なるにぃ氏から状況説明が行われている。外部の人物にゲームデータのプログラム解析依頼をした結果、当初想定されていた水準には達しておらず、場合によっては開発の立て直しが必要になる可能性も示された。当初の完成予定は2024年6月とされていた。
その上で、なるにぃ氏は現在、少数精鋭の体制で開発を進める形へ移行し、プロジェクトの立て直しを前提とした検討を続けていることも明らかにしている。
また、なるにぃ氏は公式な発信の中で、現時点で支援金の残金が約1000万円程度であることにも言及。支援者への対応として、返金についても検討している旨を説明している。
大規模な支援を集めたプロジェクトであるがゆえに、こうした情報の公表を受けて、「現在どの段階にあるのか」「これまで誰がどのように関わってきたのか」といった点に、改めて関心が集まる状況が生まれている。
その中で、すでにプロジェクトを離れている人物の名前にまで、憶測が向けられるケースも見られるようになった。
本稿では、こうした状況の中で語られている「過去に関わっていた人物」とは、どのような立場で、どこまで関与していたのか。当事者本人への取材をもとに、その証言を記録する。
ゲーム系クラウドファンディングが抱えやすい構造的課題
クラウドファンディングは、本来「完成前の企画」に対して支援を募る仕組みだ。
とりわけゲーム開発においては、アイデア段階やプロトタイプ段階で支援を集め、
その資金をもとに制作を進めていくケースも少なくない。
一方で、支援額が大きくなり、プロジェクトが長期化するほど、
いくつかの構造的な問題が表面化しやすくなる。
① 開発の進捗が「外から見えにくい」
ゲーム開発は、途中経過が数字や完成度として可視化しにくい分野だ。
実装が進んでいない場合でも、資料やデータ自体は存在するため、
外部からは「どこまで進んでいるのか」を判断しづらい。
とくに外注や分業体制を取っている場合、
プロジェクトオーナー自身も、
開発の実態を逐一把握することが難しくなることがある。
結果として、問題が顕在化したときに初めて
「想定より進んでいなかった」という事実が明らかになるケースもある。
② 支援金は「進捗に応じて減っていく」
クラウドファンディングで集めた資金は、
完成時に一括で使われるものではなく、
人件費や外注費、環境整備などで、時間とともに消費されていく。
そのため、開発が長引けば長引くほど、
「支援金は使われているが、成果物が見えにくい」という状況が生まれやすい。
これは不正や横領がなくとも、
長期プロジェクトでは構造的に起こりうる問題だ。
③ 「誰がどこまで責任を持つのか」が曖昧になりやすい
大型プロジェクトでは、
ディレクター、プランナー、外部スタッフ、協力者など、
複数の立場の人間が関わる。
しかしクラウドファンディングでは、
契約形態や権限の範囲が外部からは見えにくく、
「誰が何を決定できたのか」「どこまで把握していたのか」が曖昧になりやすい。
問題が起きた際、
その曖昧さが「関係者全体」への疑念として拡散されてしまうこともある。
④ 情報公開が、新たな憶測を生むこともある
支援者への説明責任として行われた情報公開が、
必ずしも誤解を防ぐとは限らない。
断片的な情報や強い表現が先行すると、
「では誰が悪かったのか」という問いが生まれ、
その矛先が、すでにプロジェクトを離れている人物に向くこともある。
これは意図的なものではなく、
情報の空白を埋めようとする心理によって生じる現象だ。
大型クラウドファンディングにおける問題は、
単純に「誰かが悪かった」という話ではない。
ゲーム開発においては、
- 進捗が外部から見えにくいこと
- 資金が時間とともに消費されていくこと
- 関与する人間の役割分担が複雑になりやすいこと
- 情報公開そのものが、新たな憶測を生むこと
といった構造的な要因が重なり合い、
問題が表面化するケースも少なくない。
こうした構造の中で、
プロジェクトの「現在」だけでなく、
「過去」に関わっていた人物の名前までが、
憶測とともに語られる状況が生まれることもある。
SNS上では、事実関係が確認されないまま、
プロジェクトの資金管理や私的利用を疑う内容の書き込みが見られるようになった。
こうした状況を受けて、
当時プロジェクトに関わっていた人物の一人が、
自らの立場と関与の範囲について語ることを選んだ。
過去にプロジェクトへ関わっていた人物の証言
以下は、当時『誓いノ淵』のプロジェクトに関わっていた
VTuber・おるそなー氏への取材に基づく証言である。
本稿は、プロジェクトの是非や責任の所在を断定するものではなく、
当事者本人が、どのような立場で、どこまで関与していたと認識しているのかを記録することを目的としている。
開発の成否や資金の扱いについて評価・検証を行うものではない。
現在、プロジェクトをめぐってさまざまな情報や憶測が飛び交う中で、
すでにプロジェクトを離れている人物の名前までが語られる状況が生まれている。
おるそなー氏は今回の取材において、
「自分が当時、何を担当し、何を担当していなかったのか」について、
初めてまとまった形で言葉にした。
以下、その証言をQ&A形式で記録する。
Q:『誓いノ淵』のプロジェクトに関わっていた時期を教えてください。
A:2022年12月下旬から2023年7月末までの約7か月間です。
Q:その期間、どのような立場で関わっていましたか?
A:職種は企画でしたが、主になるにぃ氏のシナリオやアイデアを、開発用資料として整理・可視化する業務を引き受けました。
Q:具体的には、どのような業務を担当していましたか?
A:以下、「作業内容」の列挙させていただきます。
・なるにぃ氏のシナリオを聞いて、資料化
・ゲーム仕様を、資料化
・スケジュール管理
⇒開発周りの人が、共通認識で開発が進められるように、資料化を中心に行っていました。
・開発周りの雑務
・シナリオまとめ
・シナリオフロー作成
・シナリオ紙芝居作成
・ゲーム機能洗い出し
・スケジュール管理(動画作成スケジュールを含めたもの)
・外部の人とのやりとり(雑誌インタビューや開発人員の面談、クラファンサイトさんとの打ち合わせ、インディーゲーム展示会の打ち合わせ、特許関連、他作担当者との打ち合わせなど)
・動画の投稿前のチェック
・クラファンサイトの作成(依頼を受け、制作作業のみを請け負いました)
・超わかるブレワイの作成補助(まるまる手伝いました)
・他作業担当者の成果物の確認
・クラファンの開発日記(お願いされることがあり、原稿作成を補助しました)
Q:開発の進捗状況や資金の管理について、どの程度把握していましたか?
A:私は、開発方針の決定・最終判断・予算決定を行う立場ではありませんでした。
あくまで、開発を進めるための補助・整理業務が中心です。
ですので、クラウドファンディングの運営判断・資金管理には関与していません。
Q:当時、このプロジェクトに参加することになったきっかけを教えてください。
A:もともとゲーム開発の現場で仕事をしていたこともあり、
いずれは何らかの形で、開発に関わる仕事に戻りたいという気持ちはありました。
一方で、当時は会社に所属してフルタイムで働くのが難しい時期でもあり、
外部スタッフとして、関われる範囲が限られた形で参加できる本件を見つけました。
本プロジェクトは、ゲーム開発としては初参入の案件です。
企業で実務に関わってきた経験から、開発の大変さは理解していました。
そのため、やる気が持続しなければ、最後まで完成させることは、
難しいと考えていました。
そこで、何度か、なるにぃ氏およびディレクターの方と面談を行い、
- なぜゲームという形でなければいけないのか
- 小説など、他の表現方法では難しいのか
といった点について質問させていただきました。
その上で、プロジェクトに対する考えや熱意に同調し、
開発に参加することを決めました。
Q:プロジェクトを離れることになった経緯について、教えてください。
A:2023年7月末をもって、プロジェクトから離脱しました。
当初想定していた稼働時間を大きく超える状況が続き、
活動者としての自身の活動や生活を維持することが
難しくなったのが主な理由です。
※以下は、取材時点で確認できた事実情報として補足する。
本プロジェクトには、クラウドファンディング資金のほか、
なるにぃ氏の私財も投入されている(YouTube動画概要欄での公式発言)。
また、おるそなー氏が本プロジェクトに関与していた期間中、
外部スタッフとして受け取っていた報酬は、
合計1,795,000円であった。
※追記(2026年1月20日)
在籍は2023年7月末まで。別途、2023年10月に単発受注(195,000円)が1件あった。
※総額(1,795,000円)に変更なし。
なお、本件については、取材過程において、
報酬の支払い状況を示す資料を確認している。
本稿では、当該金額の妥当性や評価について論じるものではなく、
あくまで事実として確認できた範囲を記録する。
以上が、当時『誓いノ淵』のプロジェクトに関わっていた人物への取材内容である。
本稿を通じて確認できたのは、
おるそなー氏が関与していた期間、立場、担当範囲、
そしてプロジェクトを離れるに至った経緯であり、
現在の開発状況や資金管理に関与する立場ではなかった、という点である。
記録として残す
現在、『誓いノ淵』のプロジェクトをめぐっては、
さまざまな意見や憶測が飛び交っている。
本稿は、そうした評価や是非を判断することを目的としたものではない。
あくまで、過去にプロジェクトへ関わっていた人物の立場と認識を、
取材に基づいて整理し、記録することを目的としている。
大型クラウドファンディングでは、
開発の進捗や役割分担が外部から見えにくくなる一方で、
問題が表面化した際には、関係者の名前が断片的に語られやすい。
その結果、個々の立場や関与の範囲とは異なる文脈で、
憶測が広がってしまうことも少なくない。
本稿で記録したのは、
そうした状況の中で語られた、
一人の関係者による立場と判断の経緯である。
現在のように情報が断片的に共有される状況では、
限られた事実や印象をもとに、
強い正義感や善悪の構図で語られてしまうこともある。
しかし、クラウドファンディングを含む制作の現場では、
立場や関与の範囲、見えている情報が人によって大きく異なる。
そうした前提を欠いたまま意見が重ねられると、
意図せず、当事者とは異なる人物にまで
負担や疑念が向けられてしまうこともある。
だからこそ、
評価や断定に踏み込む前に、
一度立ち止まり、
「何が分かっていて、何が分かっていないのか」を
整理する視点が必要になる。
本稿は、そのための材料を、
記録として提示するものである。
※本稿の作成にあたっては、取材対象者への聞き取りに加え、関連資料の確認、およびプロジェクトオーナーへの事実関係の確認を行っています。
※本記事内の画像は、クラウドファンディングサイト上で公開されている情報をもとに掲載しています。
