「なっ…!真っ暗…!」
戻った部屋は、さっきまで灯っていた明かりが跡形もなく消えていた。
この部屋に残っていた彼女は無事だろうか。
「クリスさん!!クリスさん大丈夫ですか!!」
「はい!大丈夫です」
真っ暗な部屋に、彼女の声が確かに響いた。
「はぁ…よかった…」
ほっと胸をなでおろす。
しかし安堵したのも、つかの間。
数度会話を交わした後、その声は闇に吸い込まれるように消えた。
ーーおかしい。
不安に駆られて近づいた私が見たのは——。
紐に首をつられた真っ赤に染まる彼女の姿。
恐怖に体がすくむ。
何も考えられない。
頭が真っ白になる。
そして、動かなくなった彼女の背後で、黒い影がゆらりと揺れた。
闇の中から、輪郭の掴めない“それ”がにじみ出る。
次の瞬間、鈍い音とともに彼女の下半身が裂かれ、ぬめるような赤黒いものが床に散った。
“それ”は、まるで不要な肉片を放り捨てるように、冷たく彼女を吐き出した——。
ライター/ねりけし
◇ 本記事の構成 ◇
・『アクアリウムは踊らない』とは? 水族館が舞台のホラーアドベンチャー
・『アクアリウムは踊らない』は怖い? ホラー嫌いの作者が描いた“すべての恐怖”
・怖さだけじゃない、『アクアリウムは踊らない』の美しさの正体
・怖いだけじゃない、『アクアリウムは踊らない』の本当の魅力
『アクアリウムは踊らない』とは? 水族館が舞台のホラーアドベンチャー
『アクアリウムは踊らない』は、恐怖の世界と化した水族館が舞台のホラーアドベンチャー。
2019年から体験版などが配信されていたが、2024年に完全版が配信開始。
もともと5人の開発体制だったが、ほかの4人が離脱してしまったため、イラスト担当だった橙々氏が8年かけて制作した。このエピソードは界隈でも有名で、ご存じの方も多いだろう。
今回レビューするのは、そんな本作にキャラクターボイスや新規シナリオを加えた『アクアリウムは踊らないSpecial Edition』。
「ホラー嫌いの作者が作ったホラーゲーム」として興味深い本作。
心に響くストーリーや個性的なキャラクターが魅力の作品だが、本記事ではあえて“怖さ”に焦点を当てて紹介していく。
まずは物語のあらすじに触れていこう。
主人公の少女スーズと親友ルルは、「ビアンカ水族館」の特別ガイドツアーに参加していた。
きっかけは、とある少年から半ば押し付けられるようにもらった水族館のプレミアムチケット。

しかし途中でルルが姿を消し、館内を探しているうちに、二人がいたはずの水族館は不気味な異世界へと姿を変えてしまう。
恐怖に満ちた“怪物の水族館”をさまようスーズの前に現れたのは、軍服に剣を携えた女性・レトロだった。
この二人の出会いをきっかけに、恐怖と絆の物語が幕を開ける。
『アクアリウムは踊らない』は怖い? ホラー嫌いの作者が描いた“すべての恐怖”

『アクアリウムは踊らない』は前述の通り、“ホラー嫌いの作者が作ったホラーゲーム”だ。
そのため「ホラー要素は控えめで、苦手な人でも遊べる」と言われることもある。
だが、決して物足りないわけではない。
本作にはホラーゲームが持つ怖さの要素が、驚くほど網羅されているのだ。
突如響き渡るガラスの割れる音に心臓を跳ねさせ、姿の見えない何者かの血の足跡に背筋を凍らせる。
人間ではなくなった“クリーピー”の異形に不気味さを覚え、四肢が千切れる残酷な描写に思わず目を背ける。
そして、逃げても逃げても追ってくる存在とのチェイス。
さらに廃墟のような水族館を一人で歩く孤独感。
あらゆる恐怖演出が、物語にサスペンスと緊張感を与え、気づけばプレイヤーを前へ前へと駆り立てていくだろう。
多彩な恐怖演出の詳細
ジャンプスケア:突然の破壊音が走らせる恐怖
静まり返った館内で、突如としてガラスが割れる音が鳴り響く。
準備も心構えもできないまま、心臓を鷲掴みにされる瞬間が訪れる。
心理的恐怖:見えないものの気配
廊下や水槽に残された血の足跡。
姿は見えないのに、“確かにそこにいた”ことだけが突きつけられる。
異質な恐怖:“クリーピー”の不気味さ
人間の輪郭を残しながらも、どこか不気味さが残る存在。
完全に異形とも人間とも言えない曖昧さが、心に不安を生み出す。
スプラッター描写:生々しい痛みの再現
四肢が引き裂かれる描写は、鮮烈な恐怖を生み出す。
想像以上に「痛み」を感じさせ、思わず目を逸らしたくなる。
チェイスホラー:逃げ場のない追跡
いくら逃げても背後から迫る異形。
水族館という閉鎖空間は、ただの追いかけっこを“絶望的な死のゲーム”へと変貌させる。
孤独・隔絶の恐怖:音と静寂が語る孤立
荒廃した水族館。割れた水槽、そしていくつかの屍。
ほかに誰もいないと気づいた瞬間、広大な館内は牢獄のように感じられる。
——では、なぜ「ホラー要素は控えめで、苦手な人でも遊べる」と言われるのだろうか。
本作はピクセルアート(ドット絵)で表現されており、たとえ凄惨なシーンであっても写実的な生々しさは抑えられている。血や肉片がリアルに描き込まれることはなく、想像に委ねられる形で演出されているため、ホラーが苦手な人でも安心して遊べるのだ。
もっとも、“直接的な恐怖”が薄まった分、音や暗闇の演出、不気味な余白が逆に想像力を刺激するので、独特の不安は積み重ねられていくのだが……。
怖さだけじゃない、『アクアリウムは踊らない』の美しさの正体

ホラーゲームとして、堅実に作られている分、際立つものがある。
それは「美しさ」だ。
まず、背景。
薄暗い館内に淡い光がともり、蒼い水槽の中で様々な海洋生物が揺らめく。
幻想的なその風景は、「水族館にいきたいな」と思わせる魔法のような魅力がある。
ネタバレは避けるが、終盤には銀河鉄道を彷彿とさせるほど幻想的なシーンがあり、筆者が一番心を打たれた場面でもある。
次に、異形のクリーピーたち。
人間と海洋生物が混ざったような見た目のクリーピー。
独特の不気味さがスパイスとなり、妖しく心惹かれるデザインとなっている。
筆者はピクセルアートだけでは満足できず、「画集が欲しい」と思うほどに魅了されてしまった。
『アクアリウムは踊らない』公式ホームページにはクリーピーたちのラフイラストが公開されている。筆者と同じように「堕ちてしまった」方は、ぜひ覗いてみてほしい。
そして最後に、「美しいストーリー」。
個性的なキャラクターたちが紡ぐ“絆”の物語は、ホラー演出と重なり合ってプレイヤーを強く惹き込む。

作者・橙々氏によって磨き上げられた物語は、プレイ後も心に小さな宝石となって残り続けるだろう。さらに『アクアリウムは踊らないSpecial Edition』で追加されたキャラクターボイスも忘れてはならない。
声優陣の演技と声質はキャラクターの魅力を150%以上引き出しており、セリフや行動に魂を宿している。
フリー版のみを体験した方も、ぜひ『アクアリウムは踊らないSpecial Edition』をプレイしてみてほしい。
きっと、心の中の小さな宝石が、さらに眩しく輝きだすはずだ。
怖いだけじゃない、『アクアリウムは踊らない』の本当の魅力

『アクアリウムは踊らないSpecial Edition』は、恐怖の水族館を舞台にしながらも、その中に確かな美しさと温かさを秘めていた。
プレイヤーは、ジャンプスケアや心理的恐怖、追跡の緊張感といったホラーゲームの醍醐味を存分に味わう一方で、幻想的な背景やキャラクターたちの絆、そしてピクセルアートならではの“余白の美”に心を奪われていく。
恐怖に震えながらも先を見ずにはいられないサスペンス性。
そしてプレイ後に胸に残り続けるのは、ただの怖さではなく、心に小さな宝石のように輝く物語のひとかけらだ。
“ホラー嫌いの作者が作ったホラーゲーム”というユニークな成り立ちもまた、本作の魅力をより際立たせている。
過剰な残酷さに頼ることなく、誰にでも届く普遍的な不安と美しさを積み重ねた結果、ホラーが苦手な人にも、ホラーを愛する人にも薦められる稀有な作品へと昇華しているのだと感じた。
恐ろしくも美しいこの水族館。
一度その扉を開けば、あなたもきっと恐怖と感動の両方に心を奪われることになるだろう……ちなみに筆者は、キャラクターの魅力にすっかり「堕ちてしまい」、気づけばグッズ漁りに勤しむ日々である。
引用・参考情報について
本記事で使用したスクリーンショットおよび情報は、以下に基づいております。
スクリーンショット: 『アクアリウムは踊らないSpecial Edition』のSteam公式ページより取得
ゲーム仕様・特徴: 『アクアリウムは踊らないSpecial Edition』のSteamストアページ・公式ホームページを参考
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